あたまに戻るモ

お酒のある日々


☆☆☆ 1998/10/24 ☆☆☆

宮尾酒造『〆張鶴』

ラベルイメージ かつて、某有名政治家がなにかあるごとに振る舞っていたお酒が、あまりの旨さに口コミでその評判が広まり、その評判が全国区となって、あっという間に入手困難となり『幻の銘酒』となってしまった。
こんな話聞いたことはないですか?
これはかつて地酒ブームとさんざん言われたときに、その走りとなった『越ノ寒梅』のことなんです。

確かに寒梅はうまいです。以前、会社の先輩がゲットしてきた寒梅の吟醸をしこたま呑んだことがありますが、『幻』に相応しい旨さと味のバランスをかね揃えていたように記憶しています。
じゃあ唯一無二の旨さかと言うとそのプレミア価格程では無いと思います。(ちなみにどのくらいプレミアがついていたかと言うと、東京の大多数の酒屋にておおよそですが希望小売価格の2.5〜3倍の値札がつけられています。)
こんなことに引きずられていわゆる新潟の銘酒と言われているお酒達も次々プレミアがついていくと言う悲劇が起こりました。ここで紹介する『〆張鶴』もその一つです。

『越ノ寒梅』しかり『〆張鶴』しかり、いわゆる地酒と言うのは本来その土地の米と水でつくり出され、その土地の人々の間でのみ消費されるものだと思います。しかし世の中、情報と輸送に関しては猛スピードで発達してきたため、地方の片田舎でしか味わえない筈のお酒を入手し口にすることが出来るようになりました。その土地に行かずしてです。
まあ、おいらもその恩恵を全身で受けているひとりなので強いことはあまり言えませんが、この辺りのことをちゃんと押さえて無いと、単なる思い上がった、たちの悪い酔っ払いでしか無くなってしまいそうな気がします。

ボトルイメージ さて、前置きが長くなってしまいましたが、おいらはこの『〆張鶴』を初めて呑んだのは6年位前で、まだおいらが会社で新人だった頃、週に2、3回くらいは会社からの帰りに会社の同期と呑みに行っていました。なにせ今まで行ったことのない街(八王子)でしたから行く度にいろいろ店を探索していました。
そのうちの一軒で見なれないお酒をみつけました。そのころ呑んでたお酒と言えば『一ノ蔵』とか『男山』とか『久保田』だったおいらは当然チャレンジとばかりに呑んでみました。

『あ、うまい!』
確かその時は素直にこう言ったような気がします。
『一ノ蔵』は味に癖が無く、悪く言えば味がやや薄め、『男山』は濃厚な味ですが一歩間違えれば単なるおやじ酒とでも言うような感じ、『久保田』はこのなかでは(その当時は)群を抜いて旨く、ただしちょっと飽きやすかったような気がしましたが、このなかにあって『〆張鶴』は十分に旨く、少しだけ酸味があり、でも呑み飽きないというのが率直な感想です。
ぺーぺーが会社からの帰りに呑むのですから、行く度によいお酒を呑むなんてことはまさしく自分で自分の首を締めるようなもので、そのお店では一ノ蔵を1とするならば〆張鶴はだいたい1.5くらいの値段でしたので、最後によいのを呑んで気分よく帰ろうと言う時には必ずと言ってよい程この『〆張鶴』を頼んでました。

その後、ある飲み会の2次会でいった新宿の陶玄房にて衝撃的なお酒と出会いました。
『〆張鶴 特別純米大吟醸 金印』
これを一口呑んだ時、『これまで呑んでたお酒はなんだったのだ』というフレーズは稀に耳にしますが、まさかおいらがその境地に立ってしまうとはこの時まで思わなかったです。よくマンガなんかであまりの旨さにボーっとしてしまうなんてことが描かれてますが、この時は本当にボーっとしてしまい、しばらく口から言葉が出なかったんです。

ちなみにここに載せてるボトルの写真は〆張鶴のなかでも比較的安価なお酒ですが(上で書いたものの半値くらい)、これはこれでとてもうまいです。大吟醸のように研ぎすまされたような味わいはありませんが、呑み飽きる事のないものです。
特筆すべきは燗につけた時の味で、冷やで感じる酸味がものの見事に消え失せ、たとえ燗につけ過ぎても酸っぱくなる事が無く、このことはとても真面目にしっかりと造られたお酒である証拠です。
『本当によいお酒は温めた時にその真価を発揮する』
というのがおいらのお酒哲学第1項 その1なのですが、〆張鶴はまさしく、そのものなんです。勿体無いと言われますが、おいらは普通酒だろうと大吟醸であろうと総て一回は燗につけて呑んでるんですが、冷やの時にはよかったのが燗につけたとたんダメになると言うものは大抵お酒に何かしら細工がしてある証拠です。
つまり温めることによってその化けの皮がはがれるわけです。

よく『このお酒は冷やしてお飲みください』などと書いてあるお酒をよく目にしますが、これは自分で『温めると化けの皮が剥がれるから暖めないで!』と言ってるようなものです。

それからすると〆張鶴はどのお酒も温めてよし、冷やでもよしということでしばらくはおいらのスタンダードから外れる事は無さそうです。でも東京にいる限りはおろか、新潟ですら入手困難だもんな〜。困ったものだ・・・・



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